安彦良和 機動戦士ガンダム THE ORIGIN展(東所沢)その3
備忘録的に書き出したORIGIN展の雑記ですが長くなっちゃってきました。
ただこれを書いていて改めて感じたことがありました。
私が自分で思っていた以上に「ガンダム好き」なんだなと言う事です。
私も今ほどオタクじゃない頃(そもそもオタク文化自体はあったが言葉は生まれていない頃)から観ていることもあって強く意識するほどではなかく自然に私の中に息づいていた感じです。
ORIGINはもちろん、それに合わせてファーストガンダムのTVアニメ版や劇場三部作の場面の記憶がドンドン蘇ってきます。
04 ララァ編/ソロモン編
ガンダムではTVアニメ放送後もあちこちでニュータイプ論なども盛んに議論されていましたが、私はそんなに関心は無かったように思います。あくまで物語の設定であって、作品世界の中で分かり合えるかどうかの線引きのように当時は感じていました。
物語の中心は「ララァ・スン」へと移っていきます。
ファーストガンダムの魅力は昭和中期のアニメ作品としては非常に「未来的」なところにあると思っています。ここでの未来と言うのは鉄腕アトムの世界とは異なり、19世紀の現代を未来の時代の世界や技術で再定義しているように感じます。
モビルスーツ同士の戦いを描きながら戦争世界を俯瞰でとらえ、同時に人間模様(憎しみや愛)を紡ぎだしていく。
今なら考えられなくもないが当時としては非常に欲張りで高いレベルを目指していたのかなと感じるし、やはり私は視聴者としては単なるロボットアニメとして見ていて、その後ガンダムが長く繋がれていく中で徐々に理解されていったのかもしれません。
同時にその再現度の限界から多くの仮説や隙間を埋める議論なども生まれ「機動戦士ガンダム」としての奥深さやリアル感を形成するに至っているようにも感じます。
シャア(ゲルググ)とララァ(エルメス)とアムロ(ガンダム)の関係性はその縮図のようにも見えます。
写真は彼女が駆るのはニュータイプ専用モビルアーマー「エルメス」です。サイコミュの制御による「ビット」を遠隔で操ります。
遠隔と言うのはガンダムの中ではニュータイプの見える化だったのでしょう。
エルメスはモビルアーマーの中では大型です。
ただ大型すぎる気はしますね。ビットの遠隔だけであればあれほど大型にはならないんじゃないかなと言う気がします。
確かに同じくニュータイプ専用の「ブラウ・ブロ」はさらにデカくエルメスが後継機と言う流れを思えば一定の小型化と完全遠隔を達成しているとは言えるかもしれません。
このモビルアーマーに関してはORIGINではその多くの機体が元の設定サイズよりもやや小型に描かれているような気はします。
ちなみにブラウ・ブロのパイロットは「シャリア・ブル」で、やはりオジサンキャラクターです。
赤い彗星のシャアはテキサスコロニーから「ゲルググ」に乗機しています。
もちろん赤いゲルググです。
ゲルググはこの後のソロモンやア・バオア・クーでモスグリーンとグレー色に塗り分けられた量産型が登場します。ちなみにジオン軍では初めてビームライフル装備となったゲルググですが、ビームナギナタの印象も強いですね。
ジオン軍のモビルスーツは全体的にポッチャリ体系で描かれています。
アニメの準備稿で大河原氏はガンダム同様にスマートなドムを提案していますが、安彦氏がどっしり型に直していて、フォルム時はそちらが最終稿になっています。それによりジオン軍モビルスーツは曲線を多用した重モビルスーツの印象となり、連邦軍のシャープなイメージとの対比としても面白いものがあります。
日本の工業製品でもメーカーごとにアイデンティティなどがあり差別化が図られているのと同じです。
ガンダムシリーズではファースト以降もモビルスーツは続々と生み出されていきます。その中でルールではない範疇で、後任のデザイナーは当時のコンセプトを読み解き系譜や印象、意味合いなど多岐にわたる情報を消化しつつ差別化を図る作業も行っています。
仕組みやギミックなど異なるゲルググが、のちに逆襲のシャアに登場する出渕氏がデザインした「赤いサザビー」に繋がっていくのかな、なんて思ったりもします。
ソロモン戦では「ドズル・ザビ」の印象が強く、同時にそれはモビルアーマー「ビグ・ザム」につながります。
ORIGINではキャスバルとザビ家の関係性を過去編はもちろん全編にわたり見せています。その点からはガルマやキシリアに比べて、ドズルはより1人の人間として描かれている印象です(これはアニメ版からもそうでした)
そういう人間臭い部分も人気になる要素なのかもしれません。
ソロモン戦ではドズルの操るビグ・ザムにコア・ブースターで突っ込んでいく「スレッガー・ロウ」のこのシーンはファンの間でも記憶に残るものです。
当時の劇場版「機動戦士ガンダムII 哀・戦士編」でGファイターに変わって登場したコアブースターが人気になった理由の1つにもスレッガーのこの攻防があると思います。不思議なのはビグ・ザムから出てマシンガンを打ち放つ演出は当時の私には違和感がありました。実際にはヘルメットをかぶっていればそれは可能だし、執念や怨念のようなものを見せるとなるとそうなのかもしれないのですが。。。
ただそれが強く印象に残っているということは結果的にプラスに働いたのかなとは思います。
ガンダムの世界を漫画にするというのは、他のジャンルに比べてとても情報量が多く、メカもキャラもこれでもかと言うくらいに登場し常に大運動会状態です。
と同時に全体的な情報量の整理の観点から空間把握として地形や位置などもある程度伝わらなければなりません。その点も安彦氏は相当に優れていると感じます。
その上で視点(カット割り、コマ割り)も独特なものがあり、以前何かの記事で出渕氏が安彦氏のカメラは癖があると言っていたのを思い出します。ORIGINは描写でありイラストであり、アニメーションであるのかなと言う感じがします。
05 ひかる宇宙編/めぐりあい宇宙編
さて今回のORIGIN展では客層の年齢は高めです。
漫画は2001年からの連載とは言え題材はファーストガンダムそのものなので、強く印象に残っている世代と言うのは1980~1986年くらいの時に小学校~大学に通うくらいの年齢だった人だというのは想像できます。
つまり客層はと言うと、、、
①ファーストリアル世代の現在40歳~60歳くらい
②ガンダムエース読者層
③安彦良和氏ファン層
④ガンダムシリーズアニメ層
⑤モビルスーツファン層
会場で撮った写真には多くの客が写っている写真も手元にはあるのですが、中高年層に加えて女性が少ないのは言うまでもありません。いや作品的には女性のファンもできて当然なのですが、今回は会場が所沢というやや郊外の立地もあり男性客が多い印象でした。ORIGIN展は日本各地で巡回展を開始していますので、日程や開催場所などで客層は変わってくるかもしれません。
展示で最後のテーマとなるひかる宇宙は言うまでもなく「ソーラ・レイ」のことです。
みなさん知っていると思いますが、連邦軍にはソロモン戦に使用した「ソーラーシステム」があります。あれは単純に太陽炉として高熱源をぶつけるというものです。大してソーラ・レイはエネルギー砲なので・・・・・この辺りも当時からファンの間では色々考察されたりしていました。
ガンダムの世界では艦船も多数登場します。
戦艦でもモビルスーツと同じように連邦軍に比べてジオン軍には曲面を多用したデザインラインが採用され連邦軍との差別化が図られていますが、安彦氏はアニメーターとしても優秀なので漫画でも見せ方が巧いです。
個人的には「グレート・デギン」が好きです。
総力戦となるア・バオア・クーではセイラの正体を知るジオン兵が、、、、
と叫ぶシーンがああります。こういった群衆と言うか、ごちゃごちゃした場面と言うか、そういうものを空間としてうまく見せるのも安彦氏の魅力だと私は感じています。
これは同氏の他の歴史系の作品でも感じたことなのですが、空気感がよく伝わってきます。
さて展示エリアでは唯一この最後のテーマだけが異なる手法が取り入れられていました。
印象的なセリフがフキダシの形で多数天井から吊り下げられていました。
まるでそこにキャラクターたちがいて口々に話をしている感じで楽しかったです。
こういう演出は来場者の自撮りなどの撮影スポットとしても非常によく、会場全体の流れでもクライマックスへの布石を感じさせる上手い見せ方だなと思います。
ガンダムは物語性や人間性などはもちろん、40年の長い歴史からファーストガンダムのセリフは幾度となく露出されていて聞き覚えのある有名なセリフがたくさんあります。
多くのファンは場面からセリフを思い出し、またそのセリフからキャラクターや場面を呼び起こされます。
高い次元で多角的に多くの要素がうまく絡んでいるということなのでしょう。
いよいよ最終局面で登場するのはシャアの駆る「ジオング」です。
もちろんファンならだれもが知るジオン整備兵あのセリフは超有名になりました!!
『脚なんて飾りです。エライ人にはそれがわからんのです』
たった一言でモビルスーツやモビリアーマーの理解への折り合いをつける言葉だと思います。
これはすごいです。
それはこの「頭部の無いガンダム」と「頭部しかないジオング」の戦いを予見するようなセリフでもある。
メカ好き、ロボット好きの私には今回のORIGIN展を通して感じたことがありました。
改めてモビルスーツを全体で見ると、デザインの在り方はもちろんですが全く異なる容姿の機体が乱れ飛ぶ世界観でありながら違和感を感じさせないことです。
多くの関係者が練りに練った作品なのだと改めて思いました。
そのうえで安彦氏の独特の筆致により更なる深みや合点を与えている点は、特筆すべき点だなと感じます。
物語のラストの大筋はアニメとほぼ同じです。
安彦氏も「変えない方がいいと思った」と語っていましたが、私も同意です。
ただ私自身はファンの立場として同じ定義でエンディングを迎えることで、このORIGINはあくまでアニメの再定義版だと思えることも素直に良かったと感じました。
おそらく最後の少し印章の違う結末でも作品としては良かったのかもしれませんが、機動戦士ガンダムとしての違和感が残ってしまう気がしましたし、それはORIGINとしての作品せいではないような気がします。
ラストを前に会場内では有名な曲「めぐりあい」が流されており、多くのファンが「あれはズルいよね」とtwitterに投稿するほど心に刺さる演出でした。きっとガンダムを象徴する曲なのだと思います。
ああ、ここでエンディングです。
実は私はORIGIN展は2度見に行っています。
計らずしも前期2022年1月22日(土)~2022年2月18日(金)に1度と後期2022年2月19日(土)~2022年3月21日(月祝)に1度の計2回です。
本当は1度のつもりだったんですけどね。1度見てから思い起こすと展示のボリュームがすごかったのと、SNSなどを見てるととにかくポジティブな感想が多かったのです。
中でも、、、
眼福! 圧倒的!
という言葉が多く見られ、思い出しているうちにもう1度行くことにしたわけです。
1度目と2度目は気持ちの面で少し違っていて、結果的には2度目はよりじっくり見れたので言ってよかったなと思います。
ORIGINの原稿は何度見ても感激が薄れないものでした。
書いたように私はファーストガンダムのアニメ版をリアルタイムで観ています。
その後制作された劇場版3部作もすべて映画館に行って観たのをすごくよく覚えていて、購入したパンフレットやポスターは今も大事に残しています。
ひょっとするとここまでの規模の安彦良和展はもうないかもしれません。
もちろんここまで人生とシンクロするような作品もないかもしれないと思うと本当に観に行けてよかったです。